愛媛県の南端・愛南町には、まるで手付かずの原始の海が広がっています。
四国の南西側に位置し、黒潮の恵みはもちろん、豊後水道を通って流れてくる瀬戸内海側の冷たい潮の影響も受ける海です。
水中は写真のように壁は一面、ソフトコーラルやホヤ、カイメンといった固着生物に覆われ、
地面には着底する場所がないほどの、サンゴ、海藻、ソフトコーラルが繁茂する。
暖かい地域のサンゴと寒い地域の海藻が1枚の写真に収まるなんて、まさに多様性を象徴するようなエリアです。
なぜこんなにも、僕は愛南に惹かれるんだろう。
愛南に通い始めて3年、6回この海を訪れてきました。
そうしてやっと、この海の魅力を少し表現できるようになってきたのかもしれません。
一方で、訪れる度に新しいポイントや景色が発見され、驚嘆する愛南の海。
この海は、まだまだ見たことのない世界を見せてくれそうな気がするーー。
そんな、底知れぬ愛南のダイビングの魅力の一端を今回は紹介していけたらと思います。
愛南はソフトコーラルの楽園
カラフルな光景が一面に広がる、ソフトコーラルの群生!
愛南のダイビングの魅力として、多くの人が真っ先に思い浮かべる光景でしょう。
オレンジ、ピンク、黄色、赤、紫……、とにかく多彩な色が飽和状態!!
日本全国、1つの種類のソフトコーラルが大量に群生しているポイントは数あれど、こんなにも様々な種類のソフトコーラルが入り混じっている光景は特別だと思います。
そんなソフトコーラルの中に、南から流れてきたタテジマキンチャクダイなんかが泳いでいると、まさに南国の海。
僕が昔働いてたインドネシアのラジャアンパットやコモドの海を思い出す光景です。
ここまでの写真は愛南の「横島2号地」というポイントで撮影しました。
この横島エリアはその美しさから、日本で初めての海中公園(現在は海域公園)に指定された場所のひとつ、宇和海海域公園としても有名です。
そして、これだけソフトコーラルが群生しているにも関わらず、流れはあまり強くなく、のんびりとこんなに美しい海を堪能できるのも贅沢だと思います。
他にも愛南のダイビングの拠点になるDIVE愛南から1番近く、ボートで5分ほどの「アカハエ」というポイントのソフトコーラルも見事なんです。
もちろんソフトコーラルの量や種類、密集度もすごいんですが、愛南のソフトコーラルはとにかく大きくて迫力がある!
大きいものだと、僕の背丈くらいあるトサカやオドリカラマツなどは圧巻です。
そんな光景にハナミノカサゴなんかが絡んでくれると、とにかく最高の景色に。
まさに手付かずの海ここにありといった素晴らしい環境、そしてソフトコーラルの合間に写真のようにネジレカラマツやカイメン類があったりと本当に多様さを感じさせます。
他にも愛南のソフトコーラルポイントといえば、この「ミツハエ」のアーチです!
この光景をSNSなどで見たという人も多いのではないでしょうか?
一時期めちゃくちゃ話題になったこのアーチ、いつも船を停めるところから、ちょっと別方向に潜ってみたら、見つかった場所だそうです。
こんな光景が見つかるって本当に凄いですよね!
そしてこのアーチが見つかった翌年には……、
今度は「イナグラ」というポイントのイソバナの壁を見せてもらいました!
黄色に橙色のパステルカラーのイソバナがまた可愛らしくて素敵ですね。
こんなにイソバナが群生しているポイントは日本でも珍しいと思います。
毎年のように次々と新しいポイントが発見されていくなんて、凄すぎです!
僕が愛南でお世話になっているダイビングショップはDIVE愛南というお店です。
オーナーの田中翔さんはポイント開拓にも非常に熱心で、1人で愛南の海を開拓してきた第一人者。
今も次に狙っているポイントがあるなど、これだけ圧巻の景色を見つけても、まだまだ飽き足らず更に素晴らしい光景を探しています。
“愛南愛”溢れるガイドさんがいること、これも愛南の魅力のひとつですね!
そして、もちろんソフトコーラルにはたくさんの生物が隠れています。
ワイドに撮影しても素晴らしいですし、背景にしてこうやってトサカに隠れるウミタケハゼやガラスハゼなどをマクロで撮影しても楽しめます。
これだけソフトコーラルがすごいと、マクロ撮影をするのをもったいなく感じますが、こんなグラデーションのヤギにオルトマンワラエビが付いてたり。
マクロ撮影も愛南のソフトコーラルを絡めて撮影すると非常に面白いと思います!
とにかく豊富なバリエーション
さてさて、愛南の海がすごいのはソフトコーラルだけじゃない、とにかくバリエーションが豊富なんです。
黒潮の影響を受ける愛南には、もちろんサンゴの群生も!
サンゴとソフトコーラルが入り混じる光景もありますが、一面サンゴだらけのサンゴポイントもあります。
内湾のエリアではサンゴの上にネンブツダイなどがぐっちゃり群れている場所もあったりと独特の景観を作っています。
そして後でまた紹介しますが……、
春から初夏にかけては、こんな風に海藻も繁茂します!
どのポイントにもあるわけではないのですが、湾内のポイントではその湾の浅瀬一体海藻が壁のように生えていて、その海藻の群生度合いから、まるで地形ポイントのように海藻を撮影することができます。
他にも冬時期にはミズクラゲも大量発生!
今回は6月に訪れた際にたまたま風向きと流れが重なってミズクラゲがたまっている様子を撮影することができました。
冬本番の時には透明度もスコーンと抜けて、さらに個体数も多いらしいので、非常に美しい光景が撮影できそうですね。
四国の海では、沖縄をはじめとする南国のエリアとは異なり、水中の四季をより濃く感じます。
シーズンによっても異なる表情が見られるのも、楽しみの1つですね!
他にも「アカハエ」という先ほどソフトコーラルがすごいということで紹介したポイントには、アザハタが居座り、活気に溢れる根が広がっていたり……、
内湾性の砂泥のポイントには、ミジンベニハゼがたくさんいる場所があります。
この穏やかさと砂地の雰囲気、見られる生物は、なんとなく大瀬崎を思い出したり。
こんなマクロ撮影に没頭できるポイントがあるのもいいですよね。
他にも魔界のような魚礁があったり、
日本で最も浅いオオカワリイソギンチャクの群生(水深24m)があったり、
イバラカンザシが群生するエリアがあったり、
コバルトツツボヤが群生するエリアがあったり、
もちろん地形ポイントもあります!
海岸線が複雑な愛南のエリアには大小たくさんの洞窟があるんです。
愛南に来て、あえて洞窟をメインで潜る人は少ないかもしれないですが、洞窟内にはハタンポが群れていたり、アカマツカサが群れていたりと、普通に楽しめると思います!
マダラエイや大きなミカドウミウシがたくさんいる洞窟もありますよ。
2023新名所!海藻の宮殿
そして2023年今年の愛南の新たな推しポイントは海藻の森です!
愛南というと海藻のイメージはあまりなかったのですが、翔さんにオススメされてポイントに行ってみると、浅瀬一面海藻が広がっていました。
これはすごいぞ!
と入ってみると、まさに期待通りの光景!!
海藻が多くて壁のようになっていて入れない場所もあれば、千切れた海藻がたまり天井のようになっている場所もあって、まるで海藻の部屋のようになっています。
愛南らしく、クマノミと一緒に撮ってみたり。
愛南にはクマノミの個体数が多く、サンゴやソフトコーラルと撮ることもできますが、こんな感じに海藻と一緒に撮影することもできます。
ほかにもシコロサンゴとイバラカンザシと海藻と。
これぞ愛南というような多様性。
この海の豊かさを物語っているような光景に出会うことができました。
他エリアとは一味違う海藻ポイント、ぜひオススメです!
リクエストしてみてください!
群れ群れぐちゃぐちゃの愛南の海
今度はまた別の世界を!
イサキの大群に心躍るワイルドな愛南の風景もあるんです!
愛南は釣り人にとっても聖地と言われるほど魚影が濃いことで有名です。
特に初夏のイサキの群れは、特に大きく大迫力。
今回僕は、トカラ列島のガイドの方が愛南でイサキウォールを見つけようという調査ダイブに付いて行かせて頂いたのですが……、その時はイサキウォールにはなっていませんでした。
しかし、終わることのないイサキリバーを体感しました。
めちゃくちゃすごかった!
イサキの量はすごいんですが、人が入ってない分、人に慣れていない感じで、とにかく群れが動く動く。
撮影には難しかったけど、ダイバーとして見るには最高でした。
あとは愛南の群れの楽しみ方で言うと、1種類の群れを追うというよりかは、ごちゃごちゃ感ですよね!
こんな感じでイサキの群れとコガネスズメダイの群れを一緒に撮影したり、
イサキ、キンギョハナダイ、ソラスズメダイの群れをいれたりと、とにかく魚と魚の距離感が近いのが特徴的です。
もちろん海底環境を絡めて撮影するのも楽しいですね!
愛南は通年魚影が濃いので、ワイド好きの人も非常に楽しめると思います!
そしてワイド繋がりでこのまま魚影といえば、愛南のドリフトでサメを狙うポイントも合わせて紹介しちゃいます!
愛南でサメの群れに遭遇!?ドリフトでGO!
こんなにも全てを兼ね揃えている愛南では、なんとハンマーヘッドシャークの群れを狙うことができるサメポイントもあるんです!!
今回の撮影では時期が早かったこともあり、5〜6個体のオグロメジロザメに周りをぐるぐると泳がれただけでしたが、昨年の秋の撮影では、大型のブルーシャークやハンマーヘッドなどに会うことができました。
その様子はこの記事の最後にあるyoutubeに載っていますので、ぜひご覧ください!
ただ僕はサメポイントでサメよりも1番感動したのは……
このキンギョハナダイの量!
今まで多くのダイビングポイントに潜ってきましたが、こんなに多くのキンギョハナダイが群れるポイントは滅多にありません!
ナンヨウイボヤギは咲いていませんでしたが、もしここが満開の状態でハナダイが群れていたら、物凄い光景になることは間違い無いでしょう。
まさにこういう感じ。
キンギョハナダイを撮影しているとサメがその頭上を通る。
サメを撮影していると、足元のキンギョハナダイが気になる。
なんて贅沢なポイントなんでしょう。
シチュエーション◎のマクロ生物たち
ここまでワイドの情報が続きましたが、愛南のダイビングはワイド半分、マクロ半分と言っていいほど、マクロ生物も豊富なんです!
いわゆる人気種はもちろん、とにかくシチュエーションが美しく……
こんなのアリ!?って言いたくなるようなシーンばかりが登場します。
このクダゴンベも「奇跡のクダゴンベ」なんて僕らは呼んでいて、オドリカラマツの上に美しいコバルトツツボヤが生え、そこをお気に入りの場所とじっと動かないんです。
どうやったって美しく撮れるし、水深も15mとめちゃくちゃ撮りやすい。
他にも2022年最も愛南を賑わせた生き物といえば、この金色のボロカサゴでしょう!
僕もあまりの見たさに10時間運転して行っちゃうほど!
国内では紫やベージュっぽい色や時に赤色は観察されていましたが、こんなにはっきりとした金色は僕は初めて見ました。
このボロカサゴの次はコールマンシュリンプが出るなど、本当に次から次へとダイバーを沸かす生き物が登場します。
そういえばセンネンダイの幼魚が出ていた時期も。
他にもフィコカリスシムランスというエビの緑バージョンが出ていたのも、国内では珍しいと思います。
愛南は甲殻類も非常に多いので、コガラシエビやフリソデエビ、サンゴヒメエビ。
その他、アカホシカクレエビやイソギンチャクモエビなんかは、様々な背景に隠れているので、好きなシチュエーションで撮影出来るので楽しいと思います。
後は愛南でひっそりとブーム!?になっているのがヨコエビです。
特に冬時期は多いらしいのですが、浅瀬の安全停止中などに多く観察できます。
ちょこちょこと動く姿と独特の模様が可愛らしくて、確かにハマる人の気持ちがわかる!!
愛南でマクロをやる人は、こんなちょっとした生き物も楽しみにしてみてください!
ピグミーシーホースが非常に多く、かつ、この種にしては浅い深度、25m前後でよく観察できるのも特徴だと思います。
更にはドロップオフの地形にいるわけではなく、地面に生えているヤギ類に多く着底しているところを撮影出来るのも魅力的でしょう。
ピンクはもちろん、オレンジなど……
1ポイントだけじゃなくて、他のポイントにもいたりするのでリクエストしやすいのも特徴ですね!
初夏は生態シーズンでもあり、DIVE愛南ではハッチアウトを追って粘るというよりかは……
通常のダイビングで見られる中で、こんなジョーフィッシュが卵を守る口内保育のシーンや、イナズマヒカリイシモチが卵を守るシーンなどを教えてくれます。
こんな美しい背景を住処にするハチジョウタツや
タマシイと呼ばれるサイズのアオサハギの幼魚など、とにかくここに書ききれないほどの被写体が盛りだくさん!
しかもDIVE愛南のオーナー田中翔さんはもちろん、スタッフの翔太やめぐも大瀬崎や伊豆大島出身でとにかくマクロに詳しい。
初めて見る景色や、愛南でしか見れない生き物、撮影に適した被写体、色々見せてくれるのでマクロ派もぜひ愛南へ!
おわりに
愛南のダイビングの魅力は本当に底知れない。
毎年、毎年行くたびに新しい発見があり、見たことない世界を見せてくれる。
いままさに進化しているダイビングポイントの1つだと思います。
確かにアクセスとしては愛媛県の端っこと少し行きづらいところもありますが、それを凌駕する海が待っているでしょう。
日本の海の多様性を凝縮したような愛南の海。
そんな中から自分だけの楽しみ方を見つけて見るのもいいでしょう。
僕もまた愛南は毎年潜りますので、新しい発見があればここに追記していこうと思います。
左から順に加藤めぐみさん、オーナー田中翔さん、熊谷翔太さん
常に愛南の海を全力で案内してくれるガイド陣は心強い味方です。
日々のダイビングだけでなく、新しい景色を探して調査ダイビングも怠らない、
根っからのダイビングガイドたち。
次はどんな景色を見せてくれるのでしょうかと毎回ワクワクするお店です。
愛南のダイビングシーンをまとめた水中映像集!
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